自然な日本語のすゝめ

 日本語を母国語とする人でも、自然な日本語を書いたり話したりしているとは限りません。

「自然な日本語」とは何かは言語学的・哲学的に深遠な問題です。ここでは、使用頻度がより高い日本語を「自然な日本語」と便宜的に定義します。多く使われているからと言って、その表記や言い方が無条件によいわけではありませんが、一つの目安にはなります。

使用頻度を調べるには、各種コーパスが便利です。

以下、活用例を示します。

・「子どもと」「子供」どちらの表記が自然なの?

現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)の「少納言」(ver.暫定版/2022.02.08)を利用します。

「中納言」もありますが、登録申請が必要です。およそ1週間で無料登録できます。「中納言」ではより高度な検索が可能です。

少納言でそれぞれの表記を入力すると、「子ども」27,513件(使用率48%)、「子供」29,961件(使用率52%)であることがわかります。

ただ「子供」表記はネット上で多用されています。少納言で「Yahoo!知恵袋」と「Yahoo!ブログ」のチェックを外して再検索してみましょう。「子ども」25,785件(使用率58%)、「子供」19,022件(使用率42%)であることがわかります。

ネットを除くと「子ども」表記が自然であることがわかります。学校の文書や教育実習記録で「子供」という表記が頻繁に使われている(ときにこの表記に統一している)のは、やや不自然な現象です。

・「ハワイ行く」か「ハワイ行く」か?どちらが自然?

NINJAL-LWP for BCCWJを利用します。

「行く」を入力し、「絞り込み」をクリックします。

「…に行く」32,665件、「…へ行く」9,341件で、圧倒的に「ハワイに行く」が自然です。

別のコーパス Hinoki ProjectNatsume を使ってみましょう。

Keywords欄に「行く」を入力し、動詞ですので「Verbal(Noun Particle Verb)」を選択し、Searchをクリックします。

このコーパスでは、「に」も「へ」も使用頻度が多く見えます。

「に」の列にある「ハワイ」を選択し、「助詞・活用で拡張」をクリックします。

「ハワイに」と「ハワイへ」の頻度が比較できます。「ハワイに」がより自然であることがわかります。

・痛みは「小さくなる」のか「弱まる」のか?

NINJAL-LWP for BCCWJでは「痛みが和らぐ」の頻度が高く、「小さくなる」「弱まる」の使用例はほとんどないことがわかります。

Natsumeでも「が」に続くのは「和らぐ」が多く、「小さくなる」「弱まる」はほとんどありません。痛みは和らぐのですね。

・送り仮名、「行う」と「行なう」どちらが自然?

少納言で検索すると「行う」22,853件、「行なう」2,142件。「行う」が自然です。

・「探究」と「探求」どちらが自然で、使い方にはどのような違いがあるの?

少納言では「探究」432件、「探求」409件となり、「探究」が若干多いです。

NINJAL-LWP for BCCWJの右肩部分「-> 2語比較検索」をクリック。2語比較検索画面で、検索欄に「探究 探求」とスペースで区切って「絞り込み」をクリック。「探究」と「探求」の2語が表示されるのでチェックを入れて、「2語比較」をクリック。

「探究」の頻度289、「探求」の頻度232。少納言と同じく「探究」が若干多いですね。(これはNINJAL-LWP for BCCWJが少納言と同じくBCCWJをデータベースとしているからです。)

パターンに掲載されている「探究に…」の行をクリック。コロケーションや頻度が表示されます。

「探究に乗り出す」というコロケーションはありますが、「探求に乗り出す」は不自然なようです。「探求に向かう」「探求に従事する」は自然ですが、「探究」でこのコロケーションは不自然です。

・送り仮名、「現れる」と「現われる」は?

少納言検索、「現れる」1,732、「現われる」698。「現れる」が自然です。

・「起きる」「起こる」「起る」は?

少納言検索:「起きる」1,928、「起こる」3,852、「起る」225。「起こる」が自然。

Natsumeに「起きる 起こる」とスペース区切りで入力検索。「現象が」のジャンル別頻度では、科学技術論文、書籍、検定教科書などでは「現象が起こる」が自然。新聞では「現象が起きる」が自然。

(以上、2022年2月8日記載)

(続く)